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高松高等裁判所 昭和32年(ナ)2号 判決

原告 肥後亨

被告 香川県選挙管理委員会委員長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は合式の呼出を受けながら本件最初になすべき口頭弁論期日に出頭しないので陳述したと看做さるべき訴状によれば、昭和三二年六月二八日執行の参議院地方選出議員選挙を無効と確定するとの判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は参議院香川県選出議員白川一雄死亡にともなう補欠選挙につき香川県選出議員補欠選挙選挙長に立候補届のためと明記した東京法務局の供託書を添付した参議院香川県選出議員補欠選挙選挙長宛の立候補届を昭和三二年六月二日に同選挙立候補受付に提出したところ、告示が参議院地方選出議員選挙選挙長であるからとしてこの様に訂正させられた候補者であり、被告は公職選挙法第二〇四条により定めたものである。

(二)  そうして同法第一二条(選挙の単位)、同法第一四条(参議院地方選出議員の選挙区)別表第二同法第七五条(選挙長)同法第一一三条第一項(補欠選挙)同法第二六〇条(補欠議員の任期)等の法令よりして当該選挙は通常選挙の告示でなくして補欠選挙の告示によるべきであるから、その告示には当然補欠選挙と明示し、更に選挙区を明示するため香川県と冠すべきであり、その選挙長の官庁名は参議院香川県選出議員補欠選挙選挙長とすることは前記法令の定めるところであり、又行政実例の一致するところであるから、ただ単に参議院地方選出議員選挙選挙長としたことは前記法令に違反したものである。

なお前記名称の違法なることは行政管理庁選挙部もはつきりこれを認めている。

(三)  又前記法令及び同法第七七条(選挙会)同法第七八条(選挙会の日時及び場所)同法第九五条(当選人)等の法令よりして違法名の選挙会においては参議院香川県選出補欠議員を決定することはできないから、当選決定による当選人は補欠議員たるの資格がないので補欠選挙の結果に異動を来すものである。

(四)  以上の事由よりして昭和三二年六月二八日執行の参議院地方選出議員選挙は無効であるから、同法第二〇四条に従い本訴請求に及ぶというに在る。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、

(一)  請求原因(一)に記載せられている事実は争わない。

(二)  請求原因(二)中「そうして公職選挙法第一二条(選挙の単位)同法第一四条(参議院地方選出議員の選挙区)別表第二同法第七五条(選挙長)同法第一一三条第一項(補欠選挙)同法第二六〇条(補欠議員の任期)等法令」については争わず、末尾に記載された事実は不知にしてその他の主張は認めない。

何となれば、公職選挙法第三四条及び同法第一一三条においては、選挙の期日を定めて告示し、補欠選挙を行わせなければならないと規定しているのみであつて、選挙の名称は勿論、告示の様式等については何等規定していないので、補欠選挙であることが明らかであれば足るものと解される。

なお選挙区については昭和三二年香川県選挙管理委員会告示第十一号により参議院香川県選出議員たる白川一雄の死亡に因る補欠選挙であることは明示されており、かつ選挙の期日の告示に関する法律上の権限(公職選挙法第五条第三四条第五項、同法第一一三条第一項)からして、告示に期日の示された香川県選挙管理委員会の行う選挙が参議院香川県選挙区における補欠選挙であることは、極めて明白なことである。

選挙長の名称については、法令に別段の規定はないので、この名称について違法の問題が生じる余地はなく、ただ具体的かつ特定の選挙の選挙長として選任されたもの(昭和三二年香川県選挙管理委員会告示第十二号参照)であれば足るものと解される。

(三)  請求原因(三)中「又前記法令及び公職選挙法第七七条(選挙会)同法第七八条(選挙会の日時及び場所)同法第九五条(当選人)等の法令」については争わないが、その他の主張は認めない。

(四)  請求原因(四)についてはこれを認めない。

と述べた。(立証省略)

理由

原告は昭和三二年六月二八日執行の参議院香川県選出議員白川一雄死亡にともなう補欠選挙につき参議院香川県選出議員補欠選挙選挙長宛の立候補届を同年同月二日に同選挙立候補受付に提出した候補者であること、右選挙の告示には参議院地方選出議員選挙選挙長と示されたこと及び被告は公職選挙法第二〇四条に規定せる選挙管理委員会委員長であることは何れも当事者間に争がない。

そこで原告主張の請求原因(二)の点について検討するに、参議院地方選出議員に所定の欠員が生じた場合には前記同法第一二条第一四条別表第二、第三四条、第七五条、第一一三条第一項等の法令の規定により選挙管理委員会は各選挙区において選挙長を置き、選挙の期日を定めて告示し、補欠選挙を行わなければならないものである。そうして選挙並に選挙長の名称は勿論、告示の様式等については右のほか特に規定しているものはないから、右告示には一定の選挙区において行われる補欠選挙であること及び選挙長の名称についても、ただ特定の選挙長として選任されたものなることが明示せられていれば足るものと解するを相当とする。そうして昭和三二年六月二日附香川県報登載の昭和三二年香川県選挙管理委員会告示第一一号には同日附香川県選挙管理委員会委員長浜田専一の名で「参議院地方選出議員たる白川一雄の死亡に因る補欠選挙の期日を同年同月二八日と定める旨」及び同告示第一二号には同日附前同様名義で「昭和三二年六月二八日執行の参議院地方選出議員選挙における選挙長に浜田専一を選任する旨」等がそれぞれ明示せられていることは明らかである。それ故右告示第一一号の記載によれば右告示に期日の示された選挙が香川県選挙管理委員会の行うものであつて、それは参議院香川県選挙区において行われる参議院香川県選出議員の補欠選挙であることは明らかである。又右告示第一二号によれば前記告示第一一号の記載と相まつて右選挙の選挙長として浜田専一が選任せられたことが示されたものというべきである。

したがつて右選挙の告示に選挙区を明示するため特に「香川県」と冠せず、又その選挙長の官庁名を参議院地方選出議員選挙選挙長と表示したことは何等の違法もない。ただ行政実例の多くは選挙の告示に通常原告主張のような表示をなすものであるとするも右認定の妨げとはならず、その他これを覆すに足る資料はない。この点に関する原告の主張は採用せず。

よつて右法令違反を前提として昭和三二年六月二八日執行の参議院地方選出議員選挙の無効確定を求める原告の本訴請求はその余の点につき判断を進めるまでもなく失当としてこれを棄却することとし、民事訴訟法第八九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

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